朝早くからセミが精力的に活動する、8月。
ヨーロッパに向けて旅立つ日の朝も、いつも通りの時間に目覚めた。
興奮して早すぎる目覚めを予想していたが、普通の朝だった。
いつも通りラジオを聞きながら朝食をとり、服を着替えて家を出る。
いつもと違うのは荷物の重さだった。
列車と飛行機を何度も乗り継ぐから、機内持ち込みサイズのソフトキャリーバッグにして、重量も(ほとんどの航空会社で追加料金が取られない)8kgに収めてもなお、重さを感じる。
大阪市営地下鉄を乗継ぎ、南海のなんば駅にあるマクドナルドでコーラをもらい、ラピートに乗り込む。
ラピートのシートポケットには池田泉州銀行の空港内店舗の広告が入っており、通貨両替のクーポンが入っていた。
前日までにユーロを2万円分チケットショップで買っていたが、デンマークの通過クローネはそこでは扱っていなかったため、駅で両替するつもりにしていたのでちょうど良かった。
関空でクローネを買い、フィンエアーのカウンターに向かう。
初めての海外一人旅。いよいよ旅の始まりを実感してゾクゾクしてくる。カウンターのお姉さんにEチケットをプリントしたものを見せて、ロバニエミまでの乗り継ぎを確認する。
「お荷物に刃物はないですか?」
と聴く、素晴らしい笑顔に
「(鼻毛を切るための)とても小さいハサミなら。」
と正直に答えてしまった。
「もしかすると検査で引っかかってしまうかもしれませんね。」
と言われ、怖くなった僕は荷物を預けてしまった。
あ・・・。
「機内持ち込みにしようと荷物重量を8kgに収めたんやった。」
でももうバッグはベルトコンベアに流されていってしまった。
考えないことにしよう。
そうしているうちに、見送りに来てくれた彼女が空港にやって来た。
僕が一人で行くことを内心寂しく思っているはずだが、
快く押し出してくれることに感謝しながら、カフェで一服。
そして出発ゲートへ。
「新婚旅行は2人でいっぱい楽しもう。」
という思いで彼女に手を振り、ゲートを潜った。
パスポートにスタンプをもらい、トラムに乗り込むと見えてきた。
フィンエアー!
お盆前の木曜日というのに、ごった返しの待合所。
世間のみんなも有給を2日取ったということか。
この日と9日土曜日では航空券の値段も万単位で違っていたから、
みんな考えることは同じなのである。
そんなことを考えながらブリッジを歩いて機内に乗り込み、座席に着く。
「日本、ばいばい!」
2週間後には帰ってくるのに、そんな感傷的な気分になっていた気がする。
一人で行く興奮と、一人で国を発つ心細さが合わさっていた。
そんな気分とは関係なく、AY078便はヘルシンキに向かってエンジンを動かし始めた。